オーッ、ウッデンブーツ!2015/04/10 14:55:38

やだー、あれ木靴よ!

オランダ、アムステルダム、スキポール空港。

私の足元をみて、叫んだのは出国ゲートのおねーさん。

そう、おっさんが履いていたのは、革靴でもなく、ブーツでもなく、あの有名なオランダの木靴。 各種アクセサリーとして、買い求める人は多くても、まさか、実用に履いて空港に現れるやつはいなかったのだろう。おっさんが歩をすすめるたびに、からん、ころんと牡丹灯篭のような音が空港に響く。

ここに至るには、それはそれは深い訳がある。

右足の中指の爪に違和感を感じたのは、オランダに到着して2日目の朝。もともと、水虫もちのおっさんは、ストレスを感じると発症する傾向にある。ストレスは仕事ではなく、12時間のフライトが原因と思われる。指の体操をして、迷惑にもエコノミー席をうろうろして運動したけれど、だめだったようだ。

その日は、なんとか仕事をこなしたが、夕方には耐えれらない痛みとなってきた。親切にも、取引先のえらいさんがホテルから病院へと連れて行ってくれた。時間外の閑散とした病院で同僚と医者を待つこと30分。おっさんは旅行ガイドブックの後ろの方、ほんの数ページに書かれた医者に痛みを訴える方法を食い入るように読んでいた。なるほど、足の中指って、こういえばいいのか。痛いとは、こういえばいいのか。英検の試験にこんなシチュエーションはなかったぞ。だから、日本の英語教育はとまでは考える余裕なんてこれっぽっちも無かった。

やがて、不機嫌な様子で現れたのは女性の宿直医。なんで、こんな夜中にアジア人の足を見なければいけないのという風に見えたのは、おっさんの誤解だろう。指の様子を観察し、おっさんが想定していた問答集を軽くスルーして、いきなりメスを入れた。痛かった。下手に麻酔なぞ使わないほうがよいことくらいおっさんも知識として持っていた。でも、ほんとに痛かった。オランダ医学おそるべし。杉田玄白はえらい。

応急処置をして、ホテルへもどり、痛みに耐える一夜をすごして、翌朝、再び病院へ。今度は男性の医師が処置の後を見て、顔をしかめたのは、どういう意味だったのだろう。薬の処方箋と、またおいでとの言葉とともに診察券をいただいて病院を後にした。

このとき、ありがたかったのは、旅行保険証券。これ、ひとつを病院へ提出しただけで、費用に関する交渉は一切、必要なかった。

その日、仕事に来て取引先に迷惑をかけるなんて、ビジネスマンとして最低のおっさんを、オランダのえらいさんは、アムステルダム郊外の風車のある公園へつれていってくれた。しかも、今、履いている靴よりは、ここで売っている一番大きな木靴のほうが、腫れた足には楽だろうと買ってくれた。明日は帰国。

確かに木靴は楽だった。処方箋で購入した痛み止めは、ほとんど効かない。かばんの底にわずかに残った、バッファリンがはるかに効く。オランダ人とは、体の構造が異なるのか。ターヘルアナトミアには、どう書いてあるのか。

痛む足に、ええい、ままよと、木靴を履いて登場したのが冒頭の場面。
こっちだって、履きたくて履いているわけじゃない。そりゃ、よく考えれば、もっと違う靴を買えばよかったかもしれない。しかし、痛みでそんな考えには及ばない。第一、ここは木靴の国じゃないか。

のこりのバファリンの数を数えながら、痛みに耐えること13時間、偏西風に逆らって関西空港に到着。飛行機の中で痛み止めを欲しいといわなかったのは、なんでだろう。KLMには期待しなかったということか。

関空から南海急行で地元、堺の救急指定病院へ直行。今日は大晦日。
当直医が、いったい、この処置は、どちらでと聞いたことだけは鮮明に覚えている。
縦にメスが入った中指の爪はいまだに二つに分かれて生えてきて、爪を切るたび、オランダの皆さんの親切を忘れることは無い。